展覧会
Exhibition
「厳島に遊ぶ -描かれた魅惑の聖地-」
【ごあいさつ】
安芸の宮島の名で親しまれ、日本三景のひとつに数えられる厳島は、古来海上の聖地として信仰を集めてきました。その創建が6世紀に遡るとされる厳島神社は、平安時代末期に平清盛一門の崇敬を受け、現在のような海上社殿に整えられます。その見事な景観は世界中の人々の賞賛をあつめ、同社は1996年に世界文化遺産に登録されました。厳島の魅力は厳島神社の社殿にとどまらず、参道の賑わい、背後に聳える弥山の優れた山容や、弥山が持つ密教修験の場としての側面、島の浦々に鎮座する七浦神社など多岐にわたり、訪れる多くの人を惹きつけてやみません。
昔の人々も我々と同じように、あるいはそれ以上に、厳島の魅力に夢中でした。江戸時代に入ると厳島は参詣の地としてだけでなく、遊楽の名所、憧れの旅先としても知名度を高めます。江戸時代初期17世紀には、京の都や天橋立、松島など、各地の名所に遊楽する人々の様子を描く名所風俗図屏風が盛んに描かれますが、その中でも厳島を描いた厳島図屏風の作例が目立って多いことが、その人気のほどを表しています。大きな画面に細やかに描きこまれた人々は、船を岸に着けて厳島神社を参拝するだけでなく、弥山の山頂を目指し、商店の並ぶ通りをそぞろ歩き、海辺で賑やかに宴会し、時には踊り、なんとも楽しげに厳島を満喫しています。
名所風俗図としての屏風が理想の厳島の姿を描く一方、江戸時代中期には、画家が実際に見たままの景観をリアルに残そうと努めた真景図が描かれるようになります。また、旅のガイドブックとして盛んに出版された版本や地図の類には、人々の好奇心に応えようと様々な情報が絵図とともに記されました。本展覧会は、屏風に描かれた厳島図を軸に、江戸時代の絵画作例を通して当時の人々が憧憬してやまなかった聖地・厳島の様子をご覧いただきます。
最後になりましたが、本展開催にあたり、貴重な作品の出品をご快諾くださいました所蔵者の皆様、ならびに調査や図版の提供などにご協力を賜りました関係者各位に、厚く御礼を申し上げます。
描かれた厳島の多様な姿をご堪能いただいた後は、うみもりテラスから現在の厳島の眺望をお楽しみください。
主催者
【会 期】
2019年11月23日(土)~12月29日(日)
【休館日】
月曜日(但し、月曜日が祝日の場合は開館し、翌火曜日を休館とする)
【開館時間】
10:00~17:00(入館は16:30まで)
【入館料】
一般1,000円/高大生500円/中学生以下無料
※障がい者手帳などをお持ちの方は半額。介添えの方は一名無料。※20名以上の団体は欠く200円引き。
【タクシー来館特典】
タクシーでご来館の方、タクシー1台につき1名入館無料
※当館ご入場の際に当日のタクシー領収書を受付にご提示ください。
【主 催】
海の見える杜美術館
【後 援】
広島県教育委員会、廿日市市教育委員会
【イベント情報】
■公開レクチャー「絵図から見る江戸時代の厳島参詣」*要事前申し込み
[講 師] 大知徳子氏(県立広島大学 地域基盤研究機構 地域基盤研究センター 宮島学センター 特命講師)
[日 時] 11月30日(土)13:30〜15:00
[会 場] 海の見える杜美術館
[定 員] 30名(先着順、要事前申込)
[参加費] 無料(ただし、入館料が必要です)
[申し込み方法] お電話かメールでお申し込みください。その際、参加者のお名前とお電話番号をお知らせください。
なお、定員に達し次第締め切りとさせていただきます。
Tel:0829-56-3221 メールアドレス: [email protected] (件名に「厳島に遊ぶ展レクチャー参加希望」とご記入ください)
■当館学芸員によるギャラリートーク
[日 時] 12月7日(土)、12月21日(土)、12月28日 13:30〜(45分程度)
[会 場] 海の見える杜美術館 展示室
[参加費] 無料(ただし、入館料が必要です)
[事前申し込み] 不要
主な出品作品
《吉野厳島図屏風》六曲一隻 江戸時代・17世紀 海の見える杜美術館
《厳島図屏風》六曲一双 江戸時代・18世紀 海の見える杜美術館
歌川広重《六十余州名所図会 安芸》
江戸時代・嘉永6年(1853) 海の見える杜美術館
- 章立て -
第1章 海上の理想郷 -名所風俗図屏風に描かれた厳島-
江戸時代初期に盛んに作られた、各地の名所に遊ぶ人々の様子を描いた絵画を「名所風俗図」と呼びます。ここでは名所風俗図屏風としての厳島の姿をご覧頂きます。ぜひ屏風の隅々まで鑑賞してみてください。人々はのびのびと厳島を満喫しています。厳島神社の平舞台で宴会したり、賑わう商店で買い物を楽しんだり、はては荒っぽいけんかまで。厳島神社の鳥居や社殿、千畳閣や五重塔など、実在する建物のそこかしこで遊楽する人々の奔放な様子は、戦国時代の自由な気風が未だ残る江戸時代初期の風俗図の様子をよく表しています。虚実ない交ぜになった描写は、当時の厳島の様子を正確に記録したものというよりも、海上の聖地・厳島に人々が夢見た理想郷の姿なのです。
厳島と文学
江戸時代に描かれた絵画に見られる文学と厳島の関わりを見てみましょう。
鎌倉時代に成った『平家物語』など源平合戦の物語には、平家一門の信仰を集めた厳島神社に関わる記事が見られます。ここでは『源平盛衰記』の豪華絵本に描かれた高倉天皇の厳島参詣の場面をご覧頂きます。
江戸時代における厳島をテーマにした文芸として重要なのが、中国の瀟湘八景に倣って選ばれた厳島八景です。厳島神社を巡る景色の8つの見所を詩歌に詠み、その絵を載せた版本『厳島八景』が元文4年(1739)年に出版され、広く受容されました。
江戸時代の風俗図
戦国時代の京の都の賑わいを描いた洛中洛外図の風俗表現を母体として、近世初期風俗画と呼ばれる、四季の行事や、社寺での祭礼、歌舞伎の上演、野外や美々しい邸内で人々が遊び楽しむ様子を描いた絵画が、江戸時代初期に盛んに作られました。 そこに描かれるのは、貴族や武士など権力者たちのかしこまった姿ではなく、新しい時代の主役である市井の人々の活気あふれる様子です。 第1章の厳島図屏風はこの近世初期風俗画のジャンルのひとつ、名所風俗図に属します。ここでは同じ江戸時代に描かれた風俗図のうち、四季や年中行事を主題にした作例を中心にご紹介します。
第2章 厳島に行こう -旅とメディア-
江戸時代は、貴族や武士、僧侶などの一部の身分の高い人々だけでなく、多くの人々が日本各地を旅行するようになった時代です。旅行ブームが本格化すると、旅人に向けて名所記、地図の類が盛んに制作されるようになります。これらは現代のガイドブック、観光マップにあたります。江戸時代の人々も現代の我々と同じように、ガイドブックを見て旅行の計画を立て、気持ちを盛り上げました。しかし実際には、旅行は実現できないけれど、憧れの地の情報を集めて、その様子を絵で眺めて気持ちを慰めた人も多かったようです。天橋立・厳島・松島を「日本三景」とすることも、このような旅行ブームの中から生まれたと考えられています。
第3章 厳島を記憶する -真景図にこめられた意図-
江戸時代中期を過ぎると、名所風俗図屏風のような決まった型を用いた想像の厳島ではなく、信頼のおける名所記に記された情報を駆使し、絵師自身が実際に厳島を眼前にスケッチするなどして、歴史的に正確な、あるいはより実際に近い厳島の姿が描かれるようになります。広島藩のお抱え絵師であった岡岷山が藩主の命によって描いた厳島図巻は、その代表的なものといえるでしょう。しかし《厳島図屏風》(作品番号26)の弥山にたなびく霊雲の描写が、海中に聳える厳島の霊地としての荘厳さを十分に表現しているように、表現の方法は変わっても、厳島は聖なる島として表されているのです。
エピローグ 近代における厳島
近代に入っても、第2章で見たような観光マップとしての厳島絵図は引き続き制作され、土産物として喜ばれました。また、近代の日本画家たちにとっても厳島神社の海上に浮かぶ鳥居と社殿の姿は、魅力的なモチーフであり続けました。
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